「型」…体験・動作で意味を理解

2007_0711

「型」…体験・動作で意味を理解

写真:サイウィテの石


 空中都市で有名なマチュピチュ(ペルー)などのインカ遺跡の水路や噴水などを調査した。そこでは、石に溝を彫り込むことへの恐ろしいまでの執着を見ることができる。整然と彫り込まれた水路には、水をコントロールして地下に流すという思いが感じられる。インカで用いられた灌漑農法では、貴重な水をいかにあふれさせずに遠方まで運ぶかという技術が発達した。溝が彫られた石は、天から地へという上下の流れを結ぶものとしても考えられていた。そこには「垂直に水を流す」という関係性を見出すこともできる。カップに入れた水(チチャ酒)を流す儀式も、彫り込んだ石に水を流すとことも、噴水等で沐浴することも、アンデネス(段々畑)に灌漑用水を流すことも、そこにはすべてが関係づけられていた。

 現地の考古学者に「サイウィテの石」と呼ぶ遺跡に連れて行ってもらった。一目見て、その異様さに驚いた。まるで、映画スターウォーズに出てくるデス・スター(宇宙要塞)のようである。これは、インカの世界観を象徴したもので、儀式に使われていたという。ぐるりと観察すると、上半球にはインカの暮らしが表現されていることがわかる。アンデスの語源でもある棚田や水施設が動物とともに緻密に彫り込んである。そこで、許可を得て水を実際に注ぎ流してみた。暑い日中に、巨石の上から水を流すと、乾いた表面に水が落ちて広がっていく。ゆっくりだったり速かったり、彫り込んだ溝にあわせて水がコントロールされていく。噴水から流れ落ちた水が棚田を覆い、世界を支える下半球へと伝わっていった。

 また、ピサックという別の遺跡で不可思議な風景に出会った。ある観光グループがおかしなことをしていた。ガイドが指導しながら、遺跡において全員で円陣を組み、祈りのような身体動作を繰り返していた。聞くと、ガイドは研究者で、インカの宗教儀礼を再現しながら案内しているということであった。後日調べてみると、確かにそういった遺跡体験ツアーがいくつかあった。つまり、身体を媒介として遺跡を体験しているのだ。サィウィテで水を流したことにも通じるが、身体を使って動作を体験することは、DNAに潜む過去からの情報を喚起するのではないだろうか。

 天橋立の「またのぞき」などもそれに類するものかもしれないが、国内の観光地や遺跡において、独特の身体動作が求められるところはそう多くはない。新しい試みで面白いのは、山形県朝日町にある「空気神社」である(宗教法人ではない)。大気に感謝するために平成二年に作られたが、ここでは、独特の参り方が提案されている。まず、両手を斜めにあげてY字をつくり、一礼。そして四季への感謝の意味で四拍を打ち、最後に一礼をする。言葉で施設について説明するのではなく、身体の動作でわかってもらうという仕組みである。

 パンフ等で知識を持ち帰ってもしまわれてしまうが、身体の動作は異様であればあるほど覚えているものである。その動作が歴史を持ち、洗練されていくと、やがては「型」となり、身体を介して伝わっていくのだ。

ryujirokondo's trajectory

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