「音」…山びこ調査で地形が読める

2007_0822

「音」…山びこ調査で地形が読める

写真:ヤッホー体験


 最近、まちなかでよく人に当たりそうになる。多くの場合、その相手はイヤホンをしていることが多い。外界の音が遮断されているため、他人との間隔がわからないのだろう。音漏れは論外だが、何だか、「私にはいっさいかかわらないでください」という壁のようなものも感じて、私自身はあまり好きではない。

 もともと音は伝達力が大きいため、外界の状況を視覚よりも敏感に教えてくれるものだった。私が熊野修験に参加したときのことである。普段はバスの運転手だが、実は修験道の先達という方にお話を伺っていると、山中で「カサッ」という音を聞くだけで、それが鹿なのか兎なのか、あるいは演習中の自衛隊員のものなのかがわかるということであった。修験という身体感覚の極限状況まで研ぎ澄まされた体験を経ると、そこまでの認識力を身につけることができるらしい。私自身は必死について行くだけで身体が限界になってしまったが。。。

 聴くという態度だけでなく、私たちは声や身体を使って音を出すことができる。身体は音源でもある。山中で鈴を持つのは、熊などにこちらの存在を知らせるためであるし、「火の用心」と声を出しながら拍子木を打つのは、火災予防への注意を喚起するためである。音を出して巡ると言えばちんどん屋である。ゼミ生が、ちんどん屋の行動を追いかけてビデオ撮影し、詳細に分析することで、その宣伝わざを抜き出した。ちんどん屋は、街の雰囲気や人の様子を見抜いた上で、コース取りや音の出し方、ジェスチャーの使い方などを工夫して変えていることがわかった。ただ単に音をやみくもの出しているのではなく、プロとしてのわざが存在していた。私たちは音を出すことで環境と関係を持つこともできるのである。

 和歌山市の「ヤッホーおじさん」こと貴瀬誠さんが山びこマップを作っている。とてもおもしろいので、徳島県上勝町に紹介すると、「ヤッホー調査」が立ち上がった。山びこ調査とはとても興味深いものである。ちょっと進んでは「ヤッホー」と声を出して山びこを探す。これをひたすらに繰り返しながら踏査するのだ。返ってきた山びこの特徴から、「ヤッホーポイント」を決めて認定するというものである。この調査をやってくと、実は地形を読むことができるようになる。山びこは、音が山肌に反射することで起こるため、向かい側に堅い山肌があるといった地形から、良い山びこが出そうなポイントがわかってくる。とはいっても実証が必要で、ちょっと進んでは「ヤッホー」「ヤッホー」と叫ぶ集団は、端からみればヘンな団体に見えたに違いない。腹から大声を出しながら歩くことは、なかなか気持ちが良い。上勝町では、「乙女の心の叫びポイント」や「おお神よポイント」といった楽しい名付けをして、登録制度まで設けている。さらに、「山彦認定士」という資格まで用意している。

 ちんどん屋に限らず、昔は、物売りや神楽、瞽女や虚無僧などといった、音を出しながら巡る人たちが街にはいたのである。ちんどん屋の研究からは、身体を使って音を出すという宣伝方法も見直すべきではないかと結論づけた。電子音ではなく、生の音源としての身体をもっと使ってみようではないか。

ryujirokondo's trajectory

このサイトは、独立研究者近藤隆二郎の研究や思考、 実践などについてご紹介するページです。

0コメント

  • 1000 / 1000