「写し巡礼」の新書を!

一昨日の講演は少人数でしたが、ひさびさにお話させていただきました。自己紹介などをお聞きいただく中で、別テーマでもしてほしいということになったので、今度は4月にまた「五感と身体を基点とする参加型環境まちづくり」というテーマで講演させていただく予定となりました。長崎でも現場ができるとうれしいなと思っています。

という一方で、時間があるうちに「写し巡礼」の研究を再起動させようとしています。滋賀時代にはほとんどできなかったのですが、和歌山時代に研究調査をしていました。工学系からの写し巡礼の研究はほぼ無く、総論的なものもまだありません。そこで、できれば新書として出版したいなという願いもあります。各地に残る「写し巡礼」ですが、どういう意味があって、どういった空間なのかということがなかなか理解されていないので、各地で消滅しつつあります。webでも説明するサイトをつくっていこうとは思っていますが、やはり本としてまとめて読んでいただくのがまずは必要かとは思っています。

で、企画書を書いてみました。新書で出せればとは思うのですが、どうかなあ。


「写し巡礼」本企画書 ver.2021.12.12 


1.タイトル案

「写し巡礼」

「写し霊場とはなにか」

「写し巡礼における模倣と創造」


2.サブタイトル

―模倣・縮小・再創―


3.著者案

近藤隆二郎


4.ジャンル

民俗学、宗教学、建築空間史、社会学、地蔵


5.企画趣旨

江戸時代を中心に四国八十八ヶ所や西国三十三ヶ所といった、容易に巡礼することのできない遠方の大霊場(本巡礼/全国的巡礼地)を身近な場に模倣(写し)してつくり、地域の人々に対して巡礼の機会を与えることを目的に開設された巡礼霊場を「写し巡礼地」と呼ぶ。写し巡礼地はその規模により、「国巡礼地」「郡巡礼地」「都市巡礼地」「ミニチュア巡礼地」「建築内巡礼地」に分けられるが、全国各地(ハワイや台湾まで)に数多く多種多様に存在する。現在でも信仰深い人々によって巡礼されているとともに、「接待」という外来者を迎える民俗も生き続けている。とくに、石仏を88や33体並べてつくるミニチュア巡礼地は、本巡礼を連想させる疑似空間であると同時に、集落の共演空間として外部との交流空間としての役割も果たしていた。

国内地域のどこにも見ることができるにもかかわらず、その歴史と意味については理解されていない。宗教民俗の視点はもとより、造園学、社会学、環境学の観点から光を当てることで、日本の巡礼史、空間史において魅力的な対象である写し巡礼についてひもとく書としたい。


6.読者ターゲット

地域に写し巡礼をかかえる方、関係者、石仏ファン、巡礼民俗に関心がある方、空間史、回遊式庭園など日本独自の空間作法に興味ある方。幅広い教養書として。


7.構成案

  はじめに

1 写し巡礼とは何か

1.1  和歌山県下における写し巡礼の展開過程と空間構造

2 写し巡礼地の空間とコスモロジー

2.1  北播磨におけるミニチュア巡礼地の空間体験構造

2.2  江戸における写し巡礼の鑑賞構造

2.3  バナーラスにおける水のゆくえ

3 「写し」という虚構を支える人びと

3.1  集落の「共演空間」に関する研究ー北播磨のミニチュア巡礼地

3.2 北播磨のミニチュア巡礼地における成立プロセス

4 コモンズとしての写し巡礼

4.1  コモンズとしての写し巡礼

4.2  番条八十八ヶ所における空間結合システム

5 写しという意味の模倣と創造ー再創ー

5.1  ハワイ日系人社会における写し巡礼の成立と変遷

5.2  環境社会システムの移築プロセスー写し霊場および地域交流型装置を例としてー

5.3 写されたシナリオの正統性獲得と更新ー写し巡礼の生き延び方

6 写し巡礼のこれから


8.類書と差別化

四国遍路や西国巡礼の本、類書は多く、流行に関係無く出版され続けているが、写し巡礼に特化した解説本/入門書はまだない。「札所めぐり」として個別巡礼地のガイド的な本も多い。巡礼関係の専門書に、時々は論考として掲載されているものの、写し巡礼を総合的に論じた単著はまだ無い。著者は写し巡礼について研究を進めてきたが、造園学、環境学、巡礼学、社会学といった多様な学会で写し巡礼の論文を発表してきたため、とらえる視点が複合的で多角的に写し巡礼に光をあてることができてきた。新書版に内容をやわらかく書き直すことで、写し巡礼の入門解説本としたい。また、各地の貴重な石仏を並べてつくられた写し巡礼地が崩壊の危機にあるため、そのことにも警鐘を鳴らしたい。


9.著者略歴

1965年長崎生まれ東京育ち。1994年大阪大学大学院工学研究科(環境工学専攻)単位取得退学後、和歌山大学システム工学部准教授を経て、滋賀県立大学環境科学部環境政策・計画学科教授。2016年に早期退職し、長崎県小値賀島に孫ターンし、養蜂や採取生活へ。2019年に小値賀町議会議員に無投票当選。2021年辞職。Gokan Social Design Lab.代表。

専門は環境社会計画、市民参画デザイン。写し巡礼や古代遺跡、インド沐浴文化やエコビレッジの調査研究を進めた上で、五感や自転車・衣・食からライフスタイルを変革する身体計画論を提唱。

【著書】『自転車コミュニティビジネス-エコに楽しく地域を変える-』(学芸出版社/編著)、『顔出し看板大全カオダス』(サンライズ出版/共著)、『コモンズをささえるしくみ』(新曜社/共著)など。


10.関連研究論文一覧(すべて査読付き論文か書籍の一部)

①近藤隆二郎(2006): 写されたシナリオの正統性と更新,「コモンズをささえるしくみ-レジティマシーの環境社会学-」(宮内泰介編著),新曜社, 82-107.

②近藤隆二郎(2005): ハワイ日系人社会における写し巡礼地の成立と変遷, ランドスケープ研究, 68(5) 435-438

③近藤隆二郎(2003): 紀北の地域的巡礼地,「街道の日本史35-和歌山・高野山と紀ノ川-」(藤本清二郎・山陰加春夫編著),吉川弘文館, 206-219.

④近藤隆二郎(1999): コモンズとしての写し巡礼地, 環境社会学研究, 第5号, 104-120.

⑤近藤隆二郎(1999): バナーラスにおける水のゆくえ, 季刊文化遺産-特集インドの建築伝統-, 99.4, 59-61.

⑥近藤隆二郎(1998): 和歌山県下における地域的巡礼地の展開過程と空間構造,ランドスケープ研究 61(5), 465-470.

⑦近藤隆二郎(1997): 北播磨のミニチュア巡礼地の成立プロセス, ランドスケープ研究60(5), 561-566.

⑧近藤隆二郎・日下正基(1996): 番条八十八ヶ所のイエ結合にみるコミュニティの結合効果,ランドスケープ研究 59(5), 117­120.

⑨近藤隆二郎(1995): 江戸における写し霊場の鑑賞構造,ランドスケープ研究 58(5), 161­164.

⑩近藤隆二郎(1993):北播磨のミニチュア巡礼地における空間体験構造に関する研究, 造園雑誌 56(5), 247­252.

⑪近藤隆二郎・盛岡通(1993): 集落の「共演空間」に関する研究-北播磨のミニチュア巡礼地-,環境システム研究, Vol.21, 249­256.


ryujirokondo's trajectory

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